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クジラの訪れる海

2008年03月05日


 もし私たちの惑星、地球に宇宙から訪問者が来たとしたら、この星が類いまれなる水の惑星であることに驚くに違いありません。そして彼らが目にする最初の生き物は、おそらくこの惑星をおおうように広がる海をゆうゆうと、そしてわがもの顔で泳ぐクジラたちではないでしょうか。地球でもっとも大きな生き物であるクジラ。宇宙からの訪問者の目には、この水の惑星を支配しているのはクジラたちであると映るのかもしれません。
 このところ、私のまわりには沖縄フリークが増えてきているようで、本来はオフシーズンであるはずの冬の沖縄に行ってみたいという友人が多くいます。先日も沖縄旅行に発つ直前の友人に冬の沖縄の魅力を語り、冬の沖縄の風物詩であるザトウクジラのことをついつい力説してしまいました。今ごろの沖縄はちょうどホエール・ウォッチングのシーズン真っ直中で、今ごろ、沖縄ではザトウクジラが跳ねているんだろうな、とはるかな洋上を想像したりします。

 ザトウクジラは出産、子育て、そして交尾といった繁殖活動をするために、冬のある期間を沖縄の海域で過ごします。今となっては毎年、冬になると沖縄へ回遊してくるザトウクジラですが、昔からこの海域に姿を見せていたわけではありません。はじめて沖縄でザトウクジラが確認されたのは1986年3月のこと。その時は回遊のコースを外れたクジラがたまたま沖縄に来ただけなのかもしれませんが、その後、冬になると決まった回遊のコースをたどるように沖縄に姿を見せるようになります。1990年になると姿を見せる数が増えたばかりでなく、ザトウクジラは沖縄のケラマ諸島の海域で冬を越すようになりました。どうして突然、ザトウクジラは沖縄の海に姿を見せるようになったのでしょうか。IWC(国際捕鯨委員会)が商業捕鯨のモラトリアム(無期限停止)を発したのが1982年、その後、クジラを取りまく環境は大きく変わることになりますが、そのこととなんらかの関連性はあるのでしょうか。

 理由はなんであれ、今ではザトウクジラは冬の沖縄の風物詩となり、ケラマ諸島はクジラを見ることができる貴重な海域としてホエール・ウォッチングなどが盛んに行われています。私も毎年、冬になるとホエール・ウォッチングを目的にケラマ諸島は座間味島を訪れていましたが、沖縄本島にいながらでもザトウクジラの気配は感じることができます。イルカやクジラはエコロケーションという独自の方法で餌や外敵の位置を知覚し、また海底の地形をつぶさに把握することができます。エコロケーションとは船舶でいうソナーのようなものなのですが、ザトウクジラのエコロケーションというのがまた独特なのです。それは音のようでもあり、声のようでもあり、また歌にたとえる人もいます。その歌、エコロケーションはなんと100km先まで届くのだそうで、ザトウクジラがシンギング・ホエールとも呼ばれる所以にもなっています。沖縄本島の海に入るとどこからともなく聞こえてくる、そのどことなく悲しげな歌声に耳を傾けるのが私は大好きでした。

 なぜ人は、いや私はザトウクジラに底しれぬ魅力を感じるているのでしょうか。人間をはるかにしのぐその巨体を目のあたりにしたときの感動でしょうか。愛くるしい子供を守るように寄りそい泳ぐ親子の愛情でしょうか。それとも、確かな意志が宿るようなつぶらな瞳の奥の神秘性でしょうか。考えるに私がこのクジラにもっとも魅力を感じるのは、地球規模ともいってもよい季節回遊を可能にする、その泳力です。ザトウクジラは季節回遊といって、夏には採餌のために栄養豊かな極付近の海域に、冬は繁殖にために暖かな赤道付近の海域に、なんと一度に数千kmを移動します。冬を沖縄で過ごすクジラたちも、夏にははるか北のアリューシャン列島、はてはアラスカまで移動していることが分かっています。私をふくめ多くの人は、ザトウクジラの大きな身体に広大な海を、実際には見ることのないはるかな海を感じとっているのかもしれません。

 私が沖縄で暮らしていたころ、2年ほど前までは、沖縄のある海域がザトウクジラと自由に泳ぐことができるエンカウンターとして用意されていました。ザトウクジラのいる海域にむかい、海のなかで夢にようなコンタクトをはたしたものの、思った以上のクジラの大きさに身体がすくんでしまい、実際には10m以内に近づくことはできませんでした。海のなかで間近に見るクジラは巨大な岩のようで、海の深みに潜っていく姿をただただ見送るばかり。この海域は現在でも、ある一定のルールのもと、海のなかのザトウクジラを観察できるエンカウンターとして残されています。将来的にはクジラの保護のため、このような貴重なエンカウンターは規制されていくだろうことを思うと、良いときに間にあったことの幸運をかみしめたいです。
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