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冬の沖縄

2008年02月20日
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photo by Ryuzo Shinomiya (http://www.apneaworks.com/)

 四季のいろどり豊かな日本にあって、もっとも南に位置し亜熱帯に属する沖縄は、年間をとおして季節の変化に乏しいことは否めないでしょう。しかし、そんな沖縄でも季節はやはり巡っていきますが、実際に住んでみた私の印象では、沖縄は暑いか、それとも寒いか、そのどっちかです。ちょっと乱暴な言いかたをすると、沖縄の季節は夏と冬のみ。ともすると年がら年中暖かいと思われがちな沖縄ですが、いざ住んでみると沖縄の冬は思いのほか寒くて驚かされます。なぜか沖縄の友だちは寒がりが多くて、冬にはジャケットやコートを手放すことができないのですから。沖縄生まれのある友だちは「内地の冬は身体の芯が、沖縄の冬は身体の表面が寒い」というのが口癖でした。まさにそのとおりで、うまいことを言うものだと関心してしまいました。かさねがさねでしつこいようですが、沖縄の冬はほんとうに寒いです。
 沖縄に季節を巡らせるものは気温ではなくて、ずばり季節風です。亜熱帯のモンスーン気候帯に属する沖縄は、夏には太平洋高気圧から吹き下ろす南からの蒸し暑い季節風に、冬にはシベリア高気圧から吹き下ろす北からの冷たく乾ききった季節風にさらされます。10月ごろから吹くことになるこの北からの季節風を沖縄ではミーニシ(新北風)と呼び、寒い季節の到来を知らせる風物詩にもなっています。気温について言えば、冬でも日中は15度を下まわることはめったにない沖縄ですが、この北からの季節風が本格的になる11月ごろからは体感温度がぐっと下がるのを感じます。また風は海に波をもたらしますから、夏と冬とで正反対の向きから季節風が吹くことになる沖縄では、海の様子もがらっと変わることになります。夏には風裏となり気持ちよく凪いでいた海岸が、冬には風表となって大時化なんてことはしょっちゅうです。風をさえぎるものもなく無防備に大洋に浮かんでいるも同然の沖縄では、季節風によってもたらされる影響ははかり知れません。

 沖縄の冬の深まりは、シベリア高気圧から寒波がつぎつぎに南下するようになる、年末年始から2月にかけてピークに達します。この時期の沖縄は冷たい季節風にくわえて、空一面には雲が垂れこめて、どんよりした日々が続くことになります。ときには気温が10度以下となったりしますので、風も突きさすように冷たく、ほんとうに寒いです。本格的な寒波の南下がはじまる年末年始の寒さを沖縄ではトゥンジビーサ(冬至寒)、またもっとも気温が低くなる2月の寒さをムーチービーサー(鬼餅寒)と呼びます。この時期の寒さには暑がりの私でさえ心が折れがちでしたが、寒波の南下が寒さとともに沖縄にもたらすものがあります。それは桜の開花と、ザトウクジラの回遊です。

 桜は春に暖かくなってから開花するのが常識で、また開花を知らせる桜前線は北上するものだと思っていました。しかし、沖縄で桜はもっとも寒いこの時期に開花し、さらに沖縄では桜前線は南下するのです。それにしても沖縄の桜はなぜもっとも寒い、気温にして10度以下にもなるこの時期に開花するのでしょうか。そのからくりはというと、この10度という気温にあります。なんでも桜の開花になくてはならない条件は、気温10度以上の暖かな空気に触れること、それともうひとつ、暖かさに触れる前に気温10度以下の冷たい空気にさらされることなのだそうです。本土では冬に冷たい空気にじゅうぶんにさらされていますから、あとは暖かくなるのを待つのみで、南方から暖かくなるので桜前線は北上することになります。反対に沖縄では暖かい空気にはじゅうぶんに触れているので、あとは寒波の南下を待つのみで、それとともに桜前線も南下していくのです。それにしても、やはり沖縄にはアカバナー(赤花)が似合いますね。本土のどんな桜と比べても、沖縄の桜ほど赤い花を咲かせる桜は見たことがありません。

 ザトウクジラは季節回遊といって、夏には栄養の豊かな極付近の海で採餌をおこない、冬には暖かい海に南下して繁殖を行います。出産、子育て、そして交尾と、ザトウクジラが繁殖する場のひとつとして沖縄の海があるのですが、はるばるアリューシャン列島やアラスカから数千kmもの道のりを泳いでくるわけですから、その回遊する距離たるやまったく驚異的です。例年だと沖縄で最初にザトウクジラが確認されるのは年末で、人間にとってはもっとも寒いこの時期を好んでやってくるわけでしょうから、きっとザトウクジラにとっては快適で安心できる海なのでしょう。そして、3月いっぱいでひととおりの繁殖を終えてふたたび北上するザトウクジラなのですが、まれに4月になっても確認されることがあるようです。年末年始からの数ヶ月間は海に入ると、たいていはザトウクジラのうなるような声を聴くことができます。私はザトウクジラの歌っているような、それでいてどこか悲しげな声が大好きで、この声が聴きたいが一心で海にかよったものです。

 3月になると寒さも若干やわらいでくる沖縄なのですが、この時期には沖縄でニンガチカジマーイ(二月風廻り)と呼ばれる、夏の台風とならんで昔から沖縄のウミンチュ(海人)に恐れらてきた気象があります。ニンガチ(旧暦の2月)ですから新暦では3月、ちょうどこの時期に台湾付近で発生する台湾坊主と呼ばれる爆弾低気圧がこの気象の正体で、風は風向きも定まらないほど吹き荒れ、空には落雷や竜巻がうなりをあげ、海は風波が立ち大時化となります。この気象には兆しというか、ある一定のパターンがあるようです。まず冬には珍しいくらいに空は晴れわたり、海はべた凪、最初は風向きまでが南から心地よく吹いています。つぎに西の空に雨雲が垂れこめたかと思うと、どこからともなく一陣の突風が吹きぬけます。そして南から吹いていたはずの風は風向きをさまざまに変え、西から、ついで北からと風がまわりはじめます。このパターンに当てはまったら気象に変化に要注意なのですが、沖縄ではニンガチカジマーイは寒い冬の終わりを告げる風物詩でもあるのです。

 沖縄の冬は10月ごろから吹きはじめるミーニシではじまり、3月ごろに吹き荒れるニンガチカジマーイで終わります。沖縄にとって冬はいわばシーズンオフで、あれほど多かった観光客も“わ”ナンバーのレンタカーもめっきり減って、ひっそりとした雰囲気があります。ひょっとすると、ふたたび巡ってくることになる暑い夏にむけて、じゅうぶんなエネルギーをたくわえる期間が冬なのかも知れません。いそがしく過ぎ去っていくような夏の喧噪からはなれ、本来の沖縄が垣間見ることができるようで、私は沖縄の寒い冬にしみじみした魅力を感じます。

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